この照らす日月の下は……
37
ラウはちゃんとカリダのメッセージと花を届けてくれたらしい。
その事実にキラは少しだけ安心する。出来れば、それがラクスの気持ちを和らげてくれればいいのに。そう考えても、それを確かめることは難しい。少しだけ、それが悔しいとも思う。
だが、それだけを考えていられない。
「キラ! 今日こそは僕に付き合ってもらうよ」
まずは片付けなければいけないことがあるのだ。たとえば、今、自分の腕をつかんでいる相手とのこととか、である。
「どうして?」
訳がわからないと言う表情でキラは聞き返す。
「付き合わなければいけない理由なんてないよね? おばさまからも何も言われてないし」
最近はレノアが全面的に協力をしてくれている。だから、彼女から事前の連絡がないアスランの言葉はすべて無視していいことになっているのだ。
「母さんは……今、本国だ」
「……だから?」
意味がわからない、とキラは首をかしげる。
「僕たち、もう十歳だよ。一人でお留守番出来ない年齢じゃないよね?」
そして、さらにこう続けた。
もちろん、それが自分のことを棚に上げているセリフだと言うことはわかっている。だが、周囲が許可してくれないだけで、一人でも留守番ぐらい出来るというのがキラの主張だ。
それをカナードが認めてくれないだけだ、と思う。
「……キラ……」
そのあたりの事情をアスランが知っているはずがない。信じられないというように彼は目を見開いている。
「それとも、アスランは一人で留守番できない『赤ちゃん』なの?」
以前、ミナに教えてもらったセリフをキラは唇に乗せた。
「僕が『赤ちゃん』……」
それは予想以上に効果があったらしい。アスランが目を丸くしながら固まっている。
今のうちに、とキラはアスランの手から自分の腕を解放した。
「ママの体調が悪いから、僕はまっすぐ家に帰らないと。あんまりうるさくしたくないから、アスランは我慢してね」
気を遣わせたくないから、と言外に告げる。
「……カリダおばさまの?」
さすがのアスランもこれは無視できなかったようだ。
「そう。だからつきあえないの」
キラはきっぱりと言い切る。
「ナチュラルは……だから……」
そのまま踵を返そうとするキラの耳にアスランのつぶやきが届く。しかし、所々聞き取れない部分があった。そこはあまり良くない意味の言葉なのではないか。
「パパもママもナチュラルだけど、コーディネイターに負けてないから」
少なくともその心は、とキラは続ける。
「あんまり馬鹿にしないで!」
この言葉を残すと、キラはさっさと歩き出す。
「別に、僕はそういうつもりじゃ……」
「ちょっとでも考えれば同じだよ!」
ナチュラル蔑視の思考は、とキラは口にした。
「そう言うアスランは嫌い」
さらにそう続けた瞬間、アスランの足が止る。
「……嫌い……」
キラが僕を……とそうつぶやき始めた。それを無視してキラは彼から離れていく。
「どうして、アスランは変わらないのかな」
初めて会った頃から全く変わらない。自分をはじめとした周囲が変わっているのに、だ。
それはどうしてなのだろう。
何がアスランをそこまで頑なにさせているのだろうか。
わからないうちは彼は変わらないだろう。しかし、とキラはため息をつく。
「アスランとだって、いつまでも一緒にいられないものね」
近いうちに別れの日が来る。その後のことまでは責任が持てない以上、口を出すことではない。
キラはそう考えていた。